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第一話です。

                 第一話 憧れの先輩


「なぁ、森崎。今年の夏はどうするんだ?」
僕の夏は昼休みの屋上の誠太郎の何気ない一言から始まった。
僕の名前は森崎勇太。
久夏高校に通うごく普通の高校2年生だ。
「何だよ、急に?」
誠太郎の急な発言にその言葉の真意を推し量りかねた。
「『何だよ』ってことはないだろう?ちょうど高校生活もあと半分。何か思い出に残るようなことをしたいじゃないか。」
「ああ、そういう意味か。それで?」
「それでって……。君は一度しかない高校2年の夏を無駄にするのかっ!?」
「そうは言ってもやりたい事も特にないしなぁ……。それに僕には家の仕事もあるし……。そういうお前はどうするんだよ?」
「モチロン、お宝生写真を撮りまくるのさ。」
予想していた答えが当たり前のように返ってきたことにため息が出た。
「ハァ~ア…大方、そんなことだろうと思ったよ。お前、ハデにやりすぎて捕まるなよ?」
「ハッハッハッハッ!俺がそんな簡単に捕まるようなヘマをすると思うか?そこらへんの対策はちゃんと練ってあるさ。」
「はいはい、そうですか……。」
そう、家のことはほとんど僕がやっているのだ。ウチの家は僕と姉と父親の三人。
父親は家にいないことが多いし、姉のルリ姉は僕に仕事を押し付けてくる。
なので、家のことは実質僕が切り盛りしているのだ。
「まぁ、それはともかく、森崎。だったら、学校で『素敵な出会い』をすれば良いじゃないか。」
「素敵な出会い?」
「そう!夏と言えば、男女が身も心も開放的になる季節!この季節を利用せずしていつ君が素敵な女性と巡り会えるだろうか!」
「………。」
誠太郎には悪いが少々呆れてしまった。まさか、ここまでコイツが女好きだとは思わなかった。
だが、ようやく梅雨も明けた。

真っ青な空は眩しいばかりの太陽と白い大きな入道雲

商店街や駅前のお店には「かき氷、冷やし中華始めました」の文字

そして、日陰で涼む猫の寝姿

どこをとっても夏一色。そう、夏なのだ。

呆れてしまったとはいえ、誠太郎の一理ある。チャレンジするのも悪くない。
だが、僕はあることに気づいた。
「しかし、誠太郎。ナンパするなら海とかの方が良くないか?その…夏という季節を利用するなら。」
「君にそこまでの技量と度胸があるとは思えん。期待もしてないしな。大体、クラスの女子ともほとんど話さないじゃないか。」
「う…。」
僕も別に女子と話せない訳ではないのだが、何となく僕の内で気後れするものがあり、話す必要がない限り、女子とはほとんど話さなかった。
「だから俺は『学校で』と言ったんだ。」
「………。」
さすが、我が悪友。認めたくないが、それが普段の僕の実態だ。
「ま、何はともあれ、ここで話してたってしょうがない。行動してみるんだな。君だって気になる女の子の一人ぐらいいるんだろう?」
「ま、まぁ、そりゃあな……。」
「なら、何気なく声をかけてみると良い。案外ウマくいって今年の夏には彼女Getってことになるかも知れないぞ?」
「だといいけどな……。」
「まぁ、ガンバってみな。そうだ、試しに今日から学校の色んな所に行ってみろよ。出会い云々もそうだが、思わぬ発見があるかも知れないぞ?」
「ああ、そうしてみるよ。」

誠太郎の言う通りだった。
これといって好きな子もいなかったが、登下校の最中などに見かけるかわいい子は結構いる。
ちょっとしたきっかけで仲良くなれる、ひょっとしたら一歩踏み込んだ関係になれるかも―――――――
そう考えると何だかワクワクしてしまう自分がいた。


放課後
誠太郎に言われた様に早速、学校のあちこちを回ってみることにした。
しかし、いざ何気なく話しかけてみろと言われてもその『きっかけ』がなければただのナンパ野郎と誤解されてしまう。いや、ナンパには違いないのだが……。
2年の教室、廊下、第二校舎への渡り廊下など、それなりに人のいる場所に行ってみたが、どこもそんな『きっかけ』などなかった。
「はぁ…収穫ナシか……。」
予想はしていたが現実はそう甘くなかった。
時計を見ると帰るにはまだ時間も早く、暇を持て余した僕は図書室に行くことにした。
図書室は受験生のための勉強スペースでもあるため、エアコンが効いていて涼しいので涼むにはもってこいの場所だった。
エアコンの近くのソファーに座り、体の熱さをやわらげる。
「はぁ~あ…涼しい~。」
涼しくなってきたところで、周りの様子を眺めてみた。大半が高3の受験生で本を借りに来ている人はごく僅かだった。
そのままボッーとしていたが、その内にどうにも暇を持て余してきた。
(何か本でも読むか……。)
そう思った僕はゆっくりとソファーから立ち上がり、本棚へ向かった。
当てもなく、本棚の間をウロウロしていると、タイトルが面白そうな本を見つけた。取り出そうとその本に手をかける。
だが、その本棚の中は思ったより詰まっていたのか、僕が取り出そうとした本に引っぱられて数冊落ちてしまった。
「やばっ……!」
取り出した本を自分のすぐ側に置き、慌てて拾いだす。
少し離れた所にある本を拾おうと近づくと誰かが拾い上げ、頭上から声が降ってきた。
「大丈夫?」
見上げると、ほっそりした身体の線、白い肌、大人びた雰囲気を持ち合わせた童顔、そして艶のあるセミロングの黒髪の女の子が僕が落とした本を持ってこちらを見ていた。
「…!」
僕の目の前に立っていた女の子、それは学校中の憧れの的、有森瞳美先輩だった。
(あ、あの有森瞳美先輩が目の前に……!しかも僕に話しかけてきた……!)
そう考えると急にドキドキしてきた。 
そんな僕を見て有森さんは小首を傾げて、覗き込んできた。
「どうしたの?ボッーとして。」
「えっ!あっ!いや!ああああありがとうございます。」
思いっきり噛んでしまった。我ながら格好悪い。
「ふふっ、どういたしまして。」
そう言って微笑んだ有森さんは覗き込んできた時に垂れ下がった黒髪を掻き上げた。
さっきの覗き込んだ時といい彼女の仕草1つ、1つにドキドキしてしまう。
(どっ、どうしよう!?せっかくのチャンスだ、何か話さないと……。)
焦りと緊張でワケが分からなくなり、頭が真っ白になっていた僕は自分でもよく分からない内に勝手に喋りだしていた。
「えっと、あの、僕、森崎勇太って言います!あの、有森さんはここで何を?」
「そう。ヨロシクね、森崎君。私はここで勉強してたんだけど、何だか疲れちゃって。今はちょっと休憩中。」
「そ、そうなんですか。」
「あなたは、どうしてここに?」
「えっと、その、何もすることがなくて、本が読みたくなって来たんです。でも、良い本が見つからなくて……。」
「フフッ、そうなの?…じゃあ、私のおしゃべりに付き合ってくれる?」
「ほ、本当ですか!?よ、喜んで!!」

こうして有森さんと話し始めた。
有森さんの話は学校の話から将来のことまで幅広くて聞いてるこっちも楽しかった。
それでも、さっきのように有森さんのちょっとした仕草や言葉で学校のマドンナと話しているということを思い出さされ、緊張してしまった。
そんな僕を見かねたのか、有森さんは僕にこう訊いてきた。
「森崎君…もしかして緊張してる?」
「は、はい……。」
「そんなに緊張しないで。こっちまで緊張してきちゃう。」
「はい、すみません……。」
「謝らないで。私の方がちょっと先に生まれただけなんだから。」
「そ、そうですよね、すみません……。」
「ほら、謝らないの。」
そう言って有森さんは身を乗り出して僕の顔の前に人差し指を出してきた。
「は、はい……。」
目の前に突き出された指に何だか圧倒されて思わず返事をしてしまった。
そんな風に話してる内に時間はあっという間に過ぎ、5時を知らせるチャイムが鳴った。
「大変、もうこんな時間。そろそろ帰らないと。」
「あっ、本当だ。僕も早く帰らないと……。」
「そうなの?じゃあ、途中まで一緒に行かない?」
「えっ?はい、ぜひ!」
「じゃあ、下駄箱で待ってるわね。」
「はい!」
こうして、自分でもよく分からないうちに有森さんと一緒に帰るという快挙を上げてしまった。

有森さんと別れた僕は教室に急いで戻って鞄を取りに行った。
廊下を歩きながら、さっきまでの出来事とこれから起こることを考えていた。
(有森さんと帰れる……。これって夢じゃないよな?)
正直、自分でも目の前の現実を認識しきれていなかった。
有森さんとは顔とその噂こそは知っていたものの、最上級生で学校のマドンナということもあり面識などなかったのに今日、知り合って帰ることになるとは夢にも思っていなかった。
現実かどうか確かめるために試しに自分の頬を思いっきりつねった。
痛い。間違いなく、現実だった。
その痛さにようやく現実感が湧き、気がつくと思わずガッツポーズをとっていた。
(夢じゃない…やった~!)
待ち合わせ場所の下駄箱に行くと、有森さんはもう待っていた。
「あっ、森崎君。」
「すみません、有森さん。待たせちゃって……。」
「ううん、気にしないで。私も今来たところだから。」
「そうですか、良かった……。」
「じゃあ、行きましょうか。」
「はい!」
僕たちは並んで歩き出きだした。
時間としてはまだ部活組が帰る時間じゃないので、周囲にはあまり人は居なかったがそれでも相手が有森さんというだけでやっぱり緊張してしまった。
しかも、一旦別れてしまったのもあって、会話が途切れてしまって二人とも黙ったままだ。
(やばい、会話がない……。何か話さなきゃ……!)
そうはいったものの、いざ話すとなるとなかなか話題が出てこない。さっきは有森さんが会話の主導権握ってたし、やはり勇気がいる。
だが、このままでは互いに無言のまま帰ることになってしまう。それでは何の意味もない。
意を決して、話を振ってみることにした。
「あっ、あの、有森さ……」
「あっ、瞳美ー!」
「えっ?」
声のする方に目を向けると、駆け寄ってきたのはなんとルリ姉だった。
「あ、るりちゃん。」
「今、帰り?一緒に帰りましょ。あら、勇太。アンタ、何でここにいんの?」
「えっ、あっ、ああ、図書室で偶然会ってそれで一緒に……。っていうか、ルリ姉は有森さんと知り合いなの?」
「何言ってんの、クラスメート&親友よ。ねー、瞳美。」
「ええ、るりちゃんとはいつも仲良くさせてもらってるの。」
「そ、そうなんですか……。」
(っていうか、有森さんを呼び捨て!?なんて羨ましい……。)
「それより、森崎君ってもしかして、るりちゃんの弟さん?」
「そうなのよ~。コイツ、私の弟なの。パッとしないでしょ~。」
「………。」
(有森さんの前で何てこと言うんだ……。)
いくら事実とはいえ、さすがにTPOを考えてほしかった。もっともルリ姉にそれを求めるのは無駄だが。
そんな風にルリ姉を恨めしく思っていると思わぬ助け舟が。
「そんなことないと思うわよ。さっき話したけど優しかったし、なかなかの聞き上手だったわよ。」
(あ、有森さん……!)
有森さんの優しさに思わず涙が出そうになった。纏っている雰囲気と言い、ルリ姉と同い年とは思えない。いや、思いたくない。
「勇太、アンタ、瞳美にそう言ってもらえるなんて幸せ者ね~。何てたって、瞳美は学校中の男の憧れの的なんだから。」
「る、るりちゃんたら……。」
有森さんは恥ずかしそうに顔を赤らめて顔を俯かせた。
「ま、そんなことより早く帰りましょ。勇太、今日も美味しいご飯作ってよね。」
「今日はルリ姉が作る日だろ。」
「うっさいわねー。今日はアンタのご飯が食べたいの!」
「『今日は』じゃなくて『今日も』だろ?分かったよ。」
「フフッ。」
有森さんはそんな僕たちのやり取りを微笑ましいという様に見ていた。
ルリ姉が一緒になってからはルリ姉と有森さんがずっと喋ってるという感じだった。
僕としてはもっと話したかったが、女の子二人の会話に入っていく勇気はなかったし、出会って1日目にして、ここまでの状態に持って来れたことを考えれば十分だった。


そうこうしてる内に僕たちは十字路に来た。
「じゃあ、ここで。」
「ええ。瞳美、気をつけて帰ってね。」
意味ありげに笑いながら言うルリ姉。
「ど、どうしたの、るりちゃん。」
ルリ姉の言動の変化に若干引き気味の有森さん。
「だってぇ~、瞳美は学校のマドンナなワケだし、一人になったら誰かがアンタを……。」
そう言ったルリ姉は襲いかかるようなポーズをとって、有森さんににじり寄った。
「ちょ、ちょっと止めてよ、るりちゃん。」
「そうだよ、ルリ姉。有森さんを変に不安がらせるようなこと言うなよ。」
「アハハハハハハ、冗談よ、冗談。でも、明るいとはいえ気をつけてね、瞳美。」
「ったく……。」
「ええ。ありがとう、るりちゃん。森崎君も今日は楽しかったわ。ありがとう。また話しかけてくれると嬉しいわ。」
「はい、是非。僕も楽しかったです。」
「それじゃあ、さようなら。」
そう言った有森さんは僕たちに背を向け、僕たちとは反対側の道に入って行った。
「勇太、私達も帰るわよ。」
「ああ……。」
ルリ姉に促されて、僕たちも家に向かって歩き出した。
有森さんと知り合えたことは僕にとって本当に大きな収穫だった。
これからは話しかけられる。もしかしたら有森さんから話しかけてくれるかも知れない。
そう思った僕は何となく後ろが気になり、振り返ると有森さんは手を振って、少し微笑んでいるように見えた。

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