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2008.03.07 chapter1
第一話です。
追記:誤字脱字など、若干修正しました。(3/10)


「私、ずっとおじいちゃんと二人で暮らしてますから。」

彼女の口からそう聞いたのは僕が二年の時の9月の中頃。
僕が学園祭に向けて新作うどん作りで根を詰めいてた彼女に気分転換させるため、海に誘った時だった。
その時はまだ彼女と付き合う前で、菜々と同じ様に妹の様に接していた頃だった。

あれから半年が経った。
今は柔らかい春風が吹き、それが桜の花びらを散らす4月の中旬。
今日も僕は彼女と通学路の途中で待ち合わせして菜々と三人で学校に登校していた。
待ち合わせの場所に着くと、ショートカットの女の子が元気一杯に駆けてきた。
「あ、せんぱ~い!おはようございます!」
「おはよう、なるみちゃん。」
「おはよう~!なるちゃん!」
「おはよう!菜々ちゃん。」
これがいつものやりとりである。
彼女は早速、僕の腕を取ってきた。菜々も負けじと反対側の腕に回る。これもいつもの光景。
付き合いだす前や付き合いだした頃は何かと菜々が嫉妬して大変だったが、それも今となっては大分落ち着いてきた。
言い忘れたが、彼女の名前は里仲なるみ。
商店街にある『讃岐うどん里なか』の看板娘にして、店主の里仲軍平さんの孫娘。そして、僕の彼女。
なるみちゃんは僕の顔を覗き込む様に上目遣いで話しかけてきた。
「先輩、今日もお弁当作ってきたんで食べてくださいね!」
「うん。それで、今日のおかずは何?」
「えっとぉ、今日はウィンナーです。」
「そっかぁ…楽しみにしてるね。」
「はい!」
「あ、お兄ちゃん、ずるい!菜々も食べるんだもん!」
「おいおい、あのなぁ……」

そんな感じの会話が響くのが日常茶飯事で何ともほのぼのしたものである。
僕も新学期に入り、3年になったことで何かと受験勉強で忙しいのだが、彼女との昼休みのお弁当の時間は大切にしている。
お陰で柊からは、「やれやれ、とても受験生とは思えない幸せぶりだな。」とからかわれる始末だが、休みの日にデートに行けない以上仕方ないし、それも男の努めだと僕は思っている。
自分が受験生になったことで少し思うのだが、来年はなるみちゃんが受験生ということになるのだが、彼女はどうするのだろうかと何気なく疑問に思うことが時々ある。
以前、彼女の話を聞いた所、「おじいちゃんは『行け』って言うんですけど、どうしようか迷ってるんです~。」と言っていた。
まぁ、自分の将来は自分が決めることだから僕がとやかく言える立場ではないのだが。
何はともあれ、彼女の様な女の子に慕われているのだから幸せ者であることには変わりはない。


昼休みなると僕はまっすぐにテラスに向かう。席はきまって花壇が隣にあるテーブルに向かい合って座っている。
いつも彼女が先にお弁当を広げて待っている。
「もぅ、相原先輩、遅いですよぉ~。」
「ゴメン、ゴメン。これでも急いで来たんだよ。それより、お弁当食べよ。」
「はい!それじゃあ、いただきま~す!」
なるみちゃんはいつも二人分のお弁当を一つのお弁当箱に入れて持ってくる。それにお皿二枚とお箸を付けてくるので、二人で分け合う形で食べている。
定番なのはおにぎり、卵焼き、カボチャの煮付け、etc……。
今日のメインのおかずは宣言通り、ウィンナー。しかもご丁寧にタコさんウィンナーの形なっている。
適当に自分の皿によそい、食べ始める。
なるみちゃんはその様子をじっと見つめている。いつもの様に感想を待ってるみたいだ。
「うん。今日も美味しいよ、なるみちゃん。」
「本当ですか~!やった~!」
なるみちゃんは自分の皿にあったおかずを一つを取って僕に差し出してくる。
「はい、先輩。あ~ん。」
「い、いや、なるみちゃん。いつも言ってるけどね……。」
この半年でなるみちゃんの行動パターンは大体分かってきた。
人目のある所でも甘えてくるは別に構わないのだが、さすがにこればっかりは勘弁して欲しい。
なるみちゃんにはその都度言ってるのだが、本人としては納得がいかないらしく、週に一回はやってくる。
「えっ~~!どうしてですかぁ~?別にいいじゃないですか~!」
「いや、だから、その…なるみちゃんは恥ずかしくなくても、僕は恥ずかしいんだよ。」
「うぅ…そんなぁ~。一回だけでも良いですから~。」
そう言ってなるみちゃんは潤んだ目で僕を見つめてきた。この目に僕はどうにも弱い。
しぶしぶ僕は了承することにした。
「……じゃあ、一回だけだよ?」
「本当ですか?やった~~!」
「いや、だから、そんな大きい声出さないでよ。これでも恥ずかしいんだからさ……。」
なるみちゃんはもうそんな事は聞いちゃいないといった感じで目を輝かせていた。
やれやれという気分とそんな彼女が可愛いと思える自分がいながら僕は口を開けた。
「あ~ん……」
「はい、先輩。どうぞ。あ~ん……」
僕は照れながらなるみちゃんが運んできたおかずを口に入れた。
「美味しいですか、先輩?」
「う、うん……。」
なるみちゃん屈託のない笑顔で喜んでいる。そんな彼女の表情を見ているととても微笑ましい気持ちになってくる。

そんな感じで昼食をとった。
「ごちそうさま、なるみちゃん。」
「お粗末様でした。」
なるみちゃんはお弁当箱を片付けながら微笑んでいた。
「そうだ、先輩。今日、家でご飯食べませんか?」
「え?なるみちゃんの家で?」
「はい、おじいちゃんも久しぶりに先輩に会いたいですって。」
「なるみちゃんのおじいちゃんが……。」
なるみちゃんのおじいちゃんは見た目が結構怖い。しかも、僕が知ってるなるみちゃんの肉親がおじいちゃんだけに余計に怖い。まぁ、実際の中身はそうでもないのだが……。
それはともかく、今日は金曜日だし、ちょっとした息抜きぐらいなら別に行っても構わない。最近何かと忙しかったし丁度いい。
「うん、いいよ。僕も久しぶりになるみちゃんのおじいちゃんのうどん食べたいな。」
「本当ですか?やった~!あ、でも先輩、私のうどんじゃなくて、おじいちゃんのですか?」
「いや、そういう意味じゃなくて。せっかくお店に行くんだからっていう意味で……。」
なるみちゃんは急に顔を覆って泣き始めた。
「うぇええ~~ん!先輩が私のうどんよりおじいちゃんのうどんの方が食べたいって~~!」
「あわわわ……。ゴメン、なるみちゃん!」
僕がそう言いながら、オロオロしているとなるみちゃんはまた急に顔を上げてニカッと笑った。
「エヘッ、冗談ですよ、先輩。」
「あ、コラッ!なるみちゃん!」
「きゃ~~!先輩、コワいです~!」


放課後
昼間の約束通り、僕はなるみちゃんの家に来ていた。
なるみちゃんは元気よくお店の引き戸を開けた。
「おじいちゃん、ただいま~。」
「おお、なるみ。お帰り。」
「今日は先輩も連れてきたよ~。」
「どうも、ご無沙汰してます、おじいさん。なるみちゃんからおじいさんが僕に会いたいと聞いたもので……。」
「おじいちゃん、今日は先輩もご飯一緒に食べるから!」
「そうか……。まだ、店が閉まるまで時間があるし、うどんでも食べて待っとってくれや。」
「はい、御馳走になります。」
「先輩、私は夕飯の支度があるんで食べ終わったら二階に来てくださいね。」
「うん、分かった。すぐ行くよ。」
なるみちゃんはいそいそと二階に上がっていった。あの様子だと今夜は美味しい物が食べられそうだ。
「光一君、こっちや。」
「あ、はい。」
なるみちゃんのおじいちゃんは厨房の奥のテーブルに僕を招き、ジュースを出してくれた。
「すぐ持ってくるからの。」
なるみちゃんのおじいちゃんは厨房に戻っていった。
それから待つこと五分少々。
なるみちゃんのおじいちゃんはどんぶりを一つ持って来た。
「ほい、お待ちどう。熱いから気をつけてな。」
「ありがとうございます。」
なるみちゃんのおじいちゃんが持って来たのはきつねうどん。
(きつねうどん……。)
僕は去年の学園祭のことを思い出して、何だか懐かしい気分になって一人でフッと笑ってしまった。
なるみちゃんは僕ために新作うどんを学園祭に向けて研究し、学園祭の日、僕に告白してきた。
その時、出してきたのがきつねうどんで、おあげがハート型だったのは今でもはっきり覚えている。

そんな思い出を思い出しながら、僕はうどんをすすり始めた。
                 ・
                 ・
                 ・
「おじいさん、御馳走さまでした。」
「おお、どうやった?」
「はい、美味しかったです。さすがですね。」
「なぁに、まだまだじゃよ。ああ、どんぶりは流しに置いといてくれや。」
「はい、分かりました。」
とりあえず、指示通りどんぶりを流しに入れた。
「………。」
僕はこの後のことを考えた。
さっきの約束通り、二階でなるみちゃんと話してもいい。
でも、別にこれといってやる事がないなら、店を手伝ってもいい。
と言っても、洗い物ぐらいしか出来ないが……。
なるみちゃんのおじいちゃんは僕の異変に気づき、声をかけてきた。
「どうした?光一君。早くなるみの所に行ってあげてや。」
「あ…いや、そうしようかと思ったんですが、上に行ってもなるみちゃんと話すことしか出来ないし、その…お店の方を手伝おうかと……。」
僕の言葉になるみちゃんのおじいちゃんは意外そうな反応を示した。
「ハッハハハ!なるみの友達にそんな事を言われたのは始めてや。でも、いいんか?なりみとの約束があったやろ?」
「おじいさんからOKが出れば、今からなるみちゃんには事情話してきますよ。まぁ、お店の手伝いと言っても、皿洗いとかテーブル拭くぐらいですけどね。」
「……そうやな、これから忙しくなるし、じゃあ頼むわ。上からエプロン借りてくるとええ。」
「はい。じゃあ、すぐ行きますね。」
僕はカバンを掴み、二階への階段を上った。
なるみちゃんの家はうどん屋だけあって全体的に和風な感じだ。
ただ、以前なるみちゃんの家に遊びに行った時に見たのだが、彼女の部屋だけはフローリングになっており、部屋の感じも今時の女の子の部屋という感じだ。
(なるみちゃんは多分、台所だな……。)
僕はうろ覚えながらも台所を目指した。
「あ、いた。なるみちゃん。」
「あ、先輩。もぅ~遅いですよぉ。」
声をかけられたなるみちゃんは嬉しそうにおたまを片手に持ったまま駆け寄って来た。
「ごめんね。でも、またすぐに下に戻らなきゃならないんだ。」
「えぇ~。どうしてですかぁ?」
「おじいちゃんだけで今お店やってるし、僕もやることがないから手伝おうと思って。」
「いいじゃないですかぁ?私と話しましょうよぉ。」
「うん…。僕も最初そう思ったんだけど、厨房の中の状態見てたら何だか放っておけなくなっちゃって……。ごめんね。」
「そうですか……。うぅ…分かりました。」
なるみちゃんはすごく残念がっている。
「本当にごめんね。今度埋め合わせするからさ。それで、エプロンが必要なんだけど用意してくれる?」
「本当ですか!?約束ですよぉ!じゃあ、ちょっと待っててくださいね。」
なるみちゃんは台所を出て、居間の奥にあるタンスをゴソゴソと探すこと1分。
何とも乙女チックなエプロンを抱えたなるみちゃんが出て来た。思わず絶句。
「…なるみちゃん……もう少し男向きのエプロンはないのかな?」
「えっ!?あ、ゴメンなさい!じゃあ、私の使ってください。」
なるみちゃんが着けてたエプロンはいつも家庭部で使っている濃紺の無地のエプロンだ。
サイズは…若干小さいがこの際、文句は言ってられない。
「ありがとう。じゃあ、夕飯楽しみにしてるからね。」
「はい!先輩のために私ガンバっちゃいます!」
気合いたっぷりのなるみちゃんと別れて僕は厨房に下りて行った。
「おじいさん、すみません。遅くなりました。」
「いや、構わんよ。それより早速仕事頼むわ。」
「はい、どうすればいいですか?」
「とりあえず、皿洗いやな。それから、客が来たらお茶と注文取り。それと食べ終わったどんぶりの片付けと机を拭いてくれ。」
「分かりました。それじゃ早速。」
「うん、頼むわ。」
こうして僕は里なかの仕事を手伝い始めた。正直言って、仕事はかなりハード。
皿洗いをしてたかと思えば、注文を取り、それが終わったら机の片付け。
「光一君、テーブル片付けたら、あそこのお客さんの注文取ってくれ!」
「はい!」
「光一君、どんぶりが無くなってきた。急いで洗ってくれ!」
「はい!」
……とまぁ、こんな感じで息つく暇もない、目まぐるしい時間だった。
                 ・
                 ・
                 ・
そして午後9時
最後の客が帰り、里なかは閉店時間を迎えた。
「ありがとうございました。……ハァ…疲れた~。」
「お疲れさん、光一君。」
「な、なかなかハードな仕事ですね……。なるみちゃんはいつもこんな事してるんですか?」
「ああ、ほとんど毎日な。ワシとしては嬉しい限りだが、勉強の方がな……。」
そう言ったなるみちゃんのおじいちゃんは何とも言えない複雑そうな表情を浮かべた。
「あの…おじいさん?」
「……ん?おお、スマン、スマン。つい考え込んでしまってな。さ、さっさと片付けて飯にしようや。なるみも今日は気合い入ってるようやしな。」
「ははは、そうですね。」
さすが、おじいちゃん。孫の考えてることはお見通しか。

++++++++++++++++++++++++++++++++++

それから片付けを30分程で終わらし、僕たちは遅い夕飯を迎えることになった。
ちゃぶ台の上には、ひじきとにんじんの煮物と味噌汁、そして何より僕の大好物の唐揚げが大きなお皿の上に大量に盛られていた。
なるみちゃんのおじいちゃんは僕たち二人の顔を見て、声をかけた。
「それじゃあ、食べようかの。」
「うん!それじゃあ、いっただきま~す!」
「いただきます。」
「先輩、今日は先輩のために唐揚げたくさん作ったんでいっぱい食べてくださいね!」
「うん、ありがとう。そうさせてもらうよ。」
僕は早速唐揚げを一つ口に放り込んだ。味の方はいつも通り美味しい。
「期待を裏切らないとはこういうもんだ」という思いに駆られながら僕は唐揚げを頬張り続けた。
その傍らで、なるみちゃんのおじいちゃんは、そんな僕らを微笑ましいという感じでビールを飲みながら見つめていた。

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