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2008.03.07 chapter3
第三話。
えりりん登場。そして二人の行方は……?


帰り道、僕は頭の中がグチャグチャだった。
なるみちゃんの生い立ち、そして進路のこと……。正直、たかが、高校生でしかない僕にはどうしようもない内容の問題ばかりだった。

家に着いた僕はそのまま部屋に上がり、寝巻きに着替えてベッドに入った。
(なるみちゃんにあんな秘密があるなんて、全然分からなかったな……。これから、どうすればいいんだろう?僕が出来る事、それは……。)
その先を考えようとしたが、いつの間にか襲ってきた睡魔に誘われ、僕は眠りに落ちていった。
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翌朝
頭の上で携帯のアラームが鳴っている。
しょぼついた目を擦りながら時計を見ると時間は9時を指していた。
「もう…こんな時間か……。そろそろ起きるか……。」
寝起きでボケた頭でゆっくりとベッドのはしごを降り、リビングに向かう。
他の家族はもう起きていた。父さんが声をかけてきた。
「遅いぞ、光一。さっさと顔洗って朝ご飯にしろ。」
母さんもそれに釣られて喋りだす。
「そうよ、光一。受験生なんだからしっかりしなさい。」
「………。」
僕はその光景にしばらくボーッとしていた。新聞に目を通していた父さんはその様子に気づき、声をかけてきた。
「光一、どうした?」
「…あ、いや、何でもない。顔洗ってくる……。」
洗面所に向かい、顔を洗い始めた。
顔を洗いながら、ふと考える。
(…なるみちゃんはああいう光景を経験したことがないんだよな……。)
別に親がいることに感謝しているというワケじゃないが、なるみちゃんのことを考えると、何とも言えない気持ちが生じた。例えて言うと「いないと分かる、大切なもの」というところか。
リビングに戻り、朝食を済ませた僕は部屋に戻り、着替えを済ませ、机に向かう。
とりあえず、まだ、目が完全に覚めてないので簡単な英単語から取り掛かる。
だが、覚めてない頭とは別の所で勉強に集中出来なかった。
単語帳を机に放り投げ、椅子にもたれ掛かった。やはり、昨日のなるみちゃんの話が気になる。
(進路か……。僕自身もまだ将来、何になるかなんて決めてないけど、なるみちゃんの様な場合だとそれはそれで難しいよな……。僕がなるみちゃん出来ることって……。……そうだ!)
僕はとあることを思いつき、パソコンの電源を入れた。


二日後の月曜日の放課後。
僕は職員室の川田先生の所に来ていた。
「あの、川田先生……ちょっと相談したいことがあるんですけど良いですか?」
「あら、相原君。どうしたの?恋の相談とか?あ、もしかして里仲さんとケンカでもしたの?」
川田先生はそう言ってニヤリと笑ってみせた。毎度のことだが、『相談』=『恋』だと思うのは先生の悪いクセだ。まぁ、そこが良い所でもあるのだが……。
「いえ、そういう方面は間に合ってますんで……。それより、実は……」
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「……なるほどね。でも、相原君、あなた確か、そういう方面の進路じゃなかったわよね?」
さすが川田先生。嫌な所を突いてくる。
「ああ、いや、僕じゃなくて、その……。」
川田先生は『ああ、なるほどね』という感じの反応を示した。
「ふ~ん、そういうことか……。でも、相原君、確か里仲さんて、卒業したらご実家のうどん屋を継ぐんじゃなかったんじゃなかったかしら。」
「ええ、そうなんですけど、実はちょっと……。」
「…色々と問題があると?」
「ええ、そういうことです。」
「なるほど、だから彼氏であるあなたが料理に関連した資格や職業を調べてるって訳か……。ふふっ、妬けるわね~。」
「ハハハ…どうも……。」
昨日、僕がネットで調べたのは料理に関係する資格や職業。川田先生にはその資格が取れる学校について相談に来たのだ。
「あ~あ、先生も恋したいな~。相原君、いい人知らない?」
「いえ、これといって特には……。」
「はぁ~あ…先生も高校生に戻ってみよっかなぁ……。」
「ええっ!?」
川田先生はウチのOGでもある。ということは、ウチの制服を着るということで……。
「ふふっ、冗談よ。相原君。」
「そ、そうですよね……。」
僕としてはホッとしたような、ガッカリしたような気分だった。
「冗談はさておき、そういう事ならこういうのもあるわよ。」
「えっ?どんなものですか?」
「え~とね……。」

そんな感じの会話がいつまでも放課後の職員室に響いた。


家に帰った僕は川田先生から貰った資料に目を通していた。
自分の進路とは関係ないとは言え、人に勧める以上ちゃんと説明出来なければならない。ましてや、自分の彼女の人生が懸かっているならなおさらだ。
(なるみちゃんが最終的にどうするかは分からないけど僕は僕が今出来ることをしよう。)
川田先生から貰った資料は結構な数だったが不思議なもので疲れは出なかった。

++++++++++++++++++++++++++++++++++

翌日
僕はいつものに昼休みのテラスに向かった。ただ、いつもと違うのは僕が資料の入った封筒を抱えてること。
テラスに着いた僕はいつもの席に向かう。
「あ、いた。なるみちゃん。」
「あ、先輩!待ってました。あれ?その封筒は?」
「ああ、これは後で話すよ。」
「分かりました、じゃあ、食べましょうか。」
「うん、そうだね。」
僕が席に着いたところを見計らってなるみちゃんはお弁当を広げ始めた。
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お弁当を一通り食べ終わり、くつろぎムードになってきたので僕はそろそろ例の話を切り出すことにした。
「なるみちゃん、少しいいかな?」
「どうしたんですか?先輩。急に改まって……。」
「うん、実は大事な話があるんだ。実はね、なるみちゃんの進路の事なんだ。」
「え?先輩のじゃなくて、私のですか……?」
「うん。僕も受験生だし、昔より進路のこと考えるようになってね。それで、なるみちゃんはどうするのかなって思って……。」
「う~ん、そのことなんですけど、まだどうするか迷ってて……。」
「じゃあ、前と同じなんだね。もし進学する気があるならこれを見てくれる?」
僕はそう言って持ってきた封筒の中から資料を取り出した。
「先輩、何ですか、これ?」
「なるみちゃんは料理が好きだから、それに関連した資格や職業の資料。それとこれが輝日南周辺でその勉強できる大学や専門学校の一覧表。なるみちゃんがお店を早く継ぎたいって気持ちは分かるけど、こういう資格もあった方が心強いと思って……。それで僕なりに調べてみたんだけど…どう?」
なるみちゃんはしばらく、僕が持ってきた資料を見ていた。しばしの沈黙。僕としては緊張の瞬間だった。
なるみちゃんはそれから下を向いた。
「先輩……。」
失敗したかと思い、慌ててなるみちゃんに声をかけた。
「な、なるみちゃん、あのね……」
「嬉しいです~~!!!先輩がそこまで私のこと考えてくれてたなんて~!」
「……え?あ、ああ、もちろん!僕はなるみちゃんの彼氏なんだから。」
なるみちゃんがどういう気持ちで喜んでくれたかは分からないが、とりあえず成功したようだ。
「私、もう感激です~!先輩に一生付いていきます~!」
「ちょ、なるみちゃん、何もこんな所でそんなこと言わなくても……。と、とにかく進学するってことで良いんだよね?」
「はい!先輩がここまでしてくれたんですもの、絶対に行きます!」
僕は正直胸を撫で下ろしていた。これで僕らの仲が危うくなっていたら本末転倒だった。
「じゃあ、まずは成績だね。なるみちゃんは成績は……?」
「うぅ…先輩、それは訊かないでください……。」
「うっ…ごめん……。」
やはり普段から避けてる話題だけあって、あまり芳しくないようだ。
「まぁ、今までやった教科は菜々に教えてもらうと良いとして、問題は理系科目か……。」
「え?料理関係の仕事なのに必要なんですか?」
「うん、取りたい資格によってはね。」
「私、それ一番苦手です~……。」
「やっぱりそうか……。そうすると誰がいいかな…?あ!そうだ!なるみちゃん放課後、僕の教室に来てくれない?」
「え?」

こういう問題にはあの人に頼むしかない。ただ、引き受けてくれるかどうか……。


放課後
僕となるみちゃんは二人で理科準備室に来ていた。目的はここの主、二見さんに会うため。
なるみちゃんも最初は相手が二見さんだけあって、行くことを渋ったが、僕も受験中でこれ以上他人の面倒はみられない。
となると、やはり彼女に頼むしかないということで、説得してここまでこぎ着けた。
準備室の前に立ち、なるみちゃんに声をかけた。
「それじゃ、いい?行くよ。くれぐれも二見さんを刺激しないでね。」
「わ、わかりました……。」
準備室のドアを開ける。案の定、そこには二見さんがいた。
僕らの存在に気づいた二見さんは話しかけてきた。
「あら、相原。何の用?それに、その子は?」
「ああ、紹介するね。僕の彼女の里仲なるみちゃん。」
「は、初めまして。里仲なるみです。」
「そう…。よろしく、なるみ。それで用は?」
「ああ、二見さんて今、受験勉強とかしてる?」
二見さんは「何を今さら」という感じで笑った。
「してるわけないじゃない。もう、アメリカの大学から推薦状が来てて卒業を待つばかりよ。」
「そ、そう……。」
さすが、二見さん。もう僕らの数段上のランクに昇っている。
「そ、それで実はお願いがあるんだ。」
「お願い?」
「う、うん。実は彼女に勉強を教えてあげてくれないかな?」
「勉強?…あなた、私が前になんて言ったか忘れたの?」
「うっ、やっぱりそうか……。」
実は以前にも僕は期末テストで追いつめられ、二見さんに頼み行ったのだが、二見さんは
「あなたも自分の頭の悪さを認められないの?」と言い、切って捨てられた。
その後、何とか友達にはなったのだが、『勉強を教えてくれ』という話には絶対に乗ってこなかった。
まぁ、今回、それでも一縷の望みを賭けて、ここに来たわけだが……。
「『あなたも自分の頭の悪さを認められないの?』だろ?分かってるよ。でも、今回は僕も今受験で手一杯なんだ。だから、こうして二見さんに頼みに来たわけで……。頼むよ、二見さん!」
「イヤよ。なるみ、あなたも自分の頭の悪さを認められないの?」
「………。」
これ以上はムダだと思い僕はなるみちゃんを連れて、理科室を去ることにした。
「行こう、なるみちゃん。これ以上は無理だよ。」
なるみちゃんは下を向いて黙っている。
「……ません。」
「え?」
「?」
僕も二見さんもなるみちゃんに振り向いた。なるみちゃんは二見さんをまっすぐ見て喋りだした。
「認められません!私は自分の頭の悪さを認められません!だから、相原先輩も頑張って受験勉強してるし、私も今ここに来て、二見先輩にお願いに来たんです!お願いします、私に勉強教えてください!」
僕はあっけに取られていた。あの元気一杯で、まだ背伸びしたい感じのなるみちゃんがここまで言うとは思ってもみなかった。
二見さんは無表情のまま、なるみちゃんを見つめていた。僕はその瞳からは何を思っているのか読み取れなかった。
二見さんはそのまましばらく見つめているかと思うと、急にフッと笑った。
「確かにそうね……。なるみ、一本取られたわ。……いいわ、勉強教えてあげる。」
僕もなるみちゃんもお互いにその一言にワッと歓喜の表情を浮かべた。
「ただし、私の教えはキツいわよ。ダメだと思ったらすぐ止めにするわよ。いい?」
会心の一撃とも言える啖呵を切ったなるみちゃんは既に涙目だったがその表情は明るい。
「はい!ありがとうございます、二見先輩!」
「それで、何を教えてあげればいいの?」
「ああ、理系科目なんだけど、なるみちゃんの場合だと化学かな?僕や菜々じゃムリだからね。」
「分かったわ。数日中に色々用意しとくから。」
「分かった、それじゃ、またね。二見さん。」
「ええ。」
理科準備室を出た僕らはまだ緊張が抜けてなかった。
とりあえず、落ち着くために屋上に出ようとなるみちゃん声をかけようとすると、隣にいない。辺りを捜すと、床にへたり込んでいた。
慌てて声をかける。
「な、なるみちゃん!大丈夫!?」
「こ、腰が抜けちゃいました~……。」
「と、とりあえず、屋上に出ようか。今の時間なら誰もいないと思うから……。」
「はい~……。」
とは言ったもののなるみちゃんがこんな状態では歩けない。
僕は周囲に誰もいないことを確認してなるみちゃんを抱き上げた。
「キャ!?せ、先輩!?」
「落ちないようにしっかり捕まっててね。」
僕は照れ隠しで夕日に向かって顔を向けて誤魔化した。

なるみちゃんを抱き抱えたまま屋上に出た僕はなるみちゃんをフェンスの淵に降ろし、僕も隣に腰を降ろした。
「なるみちゃん、本当に大丈夫?」
「はい……。」
「でもビックリしたよ、なるみちゃんがあんな事言うなんて……。」
「いえ、先輩があんなにガンバってくれたのに、あそこで引き下がるなんて出来なくて……。それでもう、無我夢中で……。」
「そっか……。」
夕日に包まれた屋上に春の柔らかな風が吹く。そして、しばしの沈黙。
「………。」
「………。」
「あの…先輩、一つお訊きしても良いですか?」
「うん、何?」
「どうして、急にあんな事言い出したんですか?」
「それは……。」
言えなかった。僕がなるみちゃんの秘密を知ってしまったなんて……。
「お店のことですか…?」
「え?」
「私が店を継ぐことがまだ早すぎるって思ってるんですか?」
「そうじゃないよ。ただ、その…うどんだけじゃなくて、色んな料理とかも勉強した方がいいと思って……。」
「ウソです!先輩の目、ウソ言ってます!」
「………。」
なるみちゃんは僕の目を真剣な眼差しで覗き込んでる。
もう、黙ってる訳にはいかないようだ。僕は本当の事を話すことにした。
「…銭湯でおじいちゃんから聞いたんだ……。」
「え…?」
「なるみちゃんのご両親がなるみちゃんが小さい内に亡くなったこと、おじいちゃんがこの先、なるみちゃん一人で里なかをやってけるかどうか分からないこと。…それを聞いたら僕にも何か出来る事はないかなって思って……。それで……。」
「………。」
「内容が内容だけに言えなかったんだ……。黙っててごめんね。」
なるみちゃんは僕を見つめたまま黙っている。僕もなるみちゃんをじっと見つめ返した。
しばらく、見つめ合っているとなるみちゃんは急に顔をくしゃっと歪ませ、僕の胸にすがり付いた。
「う…うわぁああああん!うわぁああああん!」
僕は何も言わず彼女を抱き寄せた。なるみちゃんは本当に小さな子供のように泣き続けた。
                 ・
                 ・
                 ・
それからどれくらい経ったのだろうか。なるみちゃんはゆっくりと僕の胸から顔を離した。
「ごめんなさい、泣いてしまうなんて……。」
「ううん、良いんだよ。そんな事……。」
「…エヘッ、先輩のシャツ、涙でベトベトですね……。」
「ああ、こんな物帰って洗えば良いんだよ。予備のシャツなんて何枚もあるし。」
そう言って僕はなるみちゃんの目に溜まった涙をそっと拭って頭を撫でた。
「………。」
「………。」
そのまま、ぼくらはまた見つめ合っていた。
しばらくして、なるみちゃんが話しだした。
「私、もう大丈夫です……。先輩が側に居てくれれば、どんな事でも頑張れちゃいます……。だから…これからも私と一緒に居てください……!」
「ああ……。」
根本的な問題が解決したわけじゃない。でも、今、彼女を支えられるのは僕しかいない。

なるみちゃんは静かに目を閉じた。僕もそれに呼応するように静かにそれに合わせていった。


4月の夕日は屋上を朱に染め、いつまでも僕らを包んでいた。


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